「太平洋戦争と朝日新聞」−戦争ジャーナリズムの研究ー
早瀬 貫著 2001年4月25日第1刷 新人物往来社刊 2800円(税別)
「前書き」
太平洋戦争は、日本の歴史上最大の戦争であり、その惨禍は目を覆わしめるものがある。日本が動員した兵力は600万人を超え、死者及び行方不明者は約300万人に迫り、国土を焦土とされ、最後には核兵器の洗礼を受けるに至った。しかも、中国、米英その他日本との交戦国あるいは戦場となった国、地域の惨状も日本と同様あるいはそれ以上に悲惨なものがあり、今日なお完全には克服しえていないといえよう。
このような太平洋戦争については、戦後50年強、様々な角度から論じられ、研究し尽くされた観がある。しかし、本書は、太平洋戦争研究のほとんど唯一の空白とも言うべき「戦争に関する新聞報道」に焦点を当て、もってこの戦争の姿を浮き彫りにしようと試みるものである。
戦争中の新聞報道については「軍部による厳重な報道の統制」あるいは「新聞社の徒らな戦争指導者への迎合」などがイメージとして語られることが多いが、当時の新聞が実際にどのような記事を載せ、また、どのような考え方、意見を国民の前に提示したかということについては、意外なほど知られていない。本書では新聞記事の中で、欧州戦線も含めた戦争の種々の面に対する意見、考え方に論及したものを中心として「新聞によって戦争を語る」ことに全力を傾注した。従って、本書の対象となる新聞記事は、政府・軍部の発表した事柄を報ずるものではなく、解説、論説、特集、座談会、社説といった新聞の中では地味で目立たないものが中心となる。そして、そのような新聞記事を読んだ一般国民がどのように考え、感じたかを中心に論じてみる所存である。テレビは存在せず、ラジオも日本放送協会のみであった当時、新聞の持つ国民に与える影響力は今日以上に絶大なものがあったと思われ、その中から、この戦争の本質が浮かび上がって来ると考えたからである。
また、本書は、あくまで太平洋戦争の研究書であるため、戦後の朝日新聞との比較等は行っていない。同時に、歴史研究の立場に徹し、現代の安全保障問題、防衛問題に言及することも控えている。読者諸賢が当時の朝日新聞の記事を通し50数年前に終わったあの戦争を純粋に見つめ直し、来る21世紀の日本の進路について考えるに際し、本書をひとつの参考資料としていただければ幸いである。なお、研究対象として朝日新聞を選んだのは、同士が当時から日本を代表する大新聞だからであり、それ以上の意味はない。同紙のみ取り上げたのは、複数紙を対象とすることによる内容の散漫化を恐れたためである。また、筆者が朝日新聞に対して何らの含みも有していないことは言うまでもない。
平成13年1月 早瀬 貫
「目次」の抜粋
T 戦局の推移と新聞報道
1 日本開戦すーー昭和16年12月
2 日本の進撃続く
3 日本の進撃阻止さる
4 第二次世界大戦の分水嶺
5 昭和18年の情勢
6 外郭地域の後退
7 戦局の急変と枢軸陣営の動揺
8 最高潮を迎える戦局
9 落日の死闘
10 大日本帝国の黄昏
U 真の平和国家を目指して
「後書き」抜粋
21世紀を今まさに迎えた現在、我々日本人は、冷静に20世紀を振り返ってみるべきであると思う。20世紀の百年間に日本は大きな失敗と成功を経験した。ーーーー(中略)
我々日本人が進む方向を見定めるという点において、新聞をはじめとするジャーナリズムの果たす役割は極めて大きいと思う。本書で紹介した記事から判断すると「当時の朝日新聞」はどう見ても戦争と軍国主義そしてナチス礼賛の旗振り役であるが、多くの日本国民が朝日新聞の記事に扇動され戦争に協力していったのではないだろうか。いったいいつからこうなったのだろうか。(以下略)